終活といえば、かつては死後の葬儀やお墓、財産関係の整理を目的とする活動というイメージがありましたが、最近は相続や病気になったときだけのためではなく、自分らしく生きるために何ができるかとう観点から元気なうちに準備しておく活動と捉えられるようになっています。
終活とは
近年、「終活」という言葉をよく耳にするようになりました。終活という言葉は、『週刊朝日』の連載記事「現代の終活事情」(2009年)に端を発しますが、2010年と2012年には「ユーキャン新語流行語大賞」にノミネートされるなど多くの人の関心を集めまた造語です。わずかな期間で社会的に広く知られる言葉となり、「終活」の言葉を含む映画も多く誕生しています。
生まれた時には身ひとつで誕生するのに、死後は「生きた証」をひとつひとつ整理していく必要があります。しかし自分自身では、何一つそれを行うことができないのが現実です。
死後は自分で銀行や役所に行くことはできませんし、自分で葬儀の手配をすることもできませんし、歩いてお墓に入ることもできません。
このように死後に想定されるさまざまな諸問題を事前に考えておこうというのが、終活の目的で、前述の週刊朝日の連載記事でも、葬儀やお墓、死後の諸手続きを中心に紹介されていました。
しかし言葉は生き物。次第に終活の捉え方に変化が生じるようになりました。
「死後、残された人が困らないように準備しておく活動」という側面から、「人生の終焉に向けて準備する活動」となり、さらに「自分らしく生きるための活動」という意味で情報発信されるようになり、受け手も「縁起でもない」から「今でしょ!」と前向きに捉える人が増えたように思います。
厚生労働省でも、「人生の最終段階についてあらかじめ自分で考えておきましょう」と、この概念に「人生会議」という愛称をつけて、終活を提唱しています。毎年11月30日を語呂に合わせて「いい看取り」と定め、2019年にはポスター掲示作戦で大々的にPRキャンペーンを試みました(ポスターのデザインが問題となって掲示は中止となりましたが)。
終活を始めるタイミング
「そろそろ終活しようかな」と考えるタイミングは人によって異なります。親しい人が亡くなったり、病気になったり、介護度が上がったときなど、深刻な状況に陥ったり不測の事態が発生したときばかりではありません。
定年を機に考える人もいるでしょう。リフォームや住み替えを機に、また子供の独立や結婚を機に考える人もいます。
コロナ渦では、遠方にあるお墓への墓参が困難になってしまったため放置せざるを得ない状況になり、「お墓を別の場所に移動した方が良いのでは」「自分の代で墓じまいを検討したい」という声もよく聞かれました。
家の片づけやアルバム整理も終活のひとつ、会いたい人に会っておくというのも終活。何をもって終活というかは人によって異なります。
「終活をはじめよう」と気負わなくても、日々の暮らしの中で自然に終活している人も多いのではないでしょうか。
終活で取り組むこと7つ
終活を意識したら、まずは次の7つの事項から取り組んでみましょう。
1)エンディングノートを書く
エンディングノートとは生きた証を記録し、自分の希望や思いを伝えるツールです。書き込み式になっているので、「終活といっても何からよいのかわからない」という人は、項目に沿って書けるところから埋めてみましょう。
エンディングノートでは、概ね以下の内容で構成されています。
●個人情報(出身地、経歴、生年月日、趣味や特技)
●医療や介護の希望
●葬儀やお墓の希望
●資産情報
●遺言書の有無や保管場所
●ペットの情報
●友人・知人リスト
●家族へのメッセージ
現在、数百種類にもおよぶエンディングノートが刊行されていますので、どのエンディングノートを選んだら良いか迷ってしまうと思います。
エンディングノートは買って満足してしまう人も多いのですが、書きながら徐々に完成していく性格もの。購入するときには、どのような構成になっているか、という視点で中身を吟味することは大切ですが、それ以上に「書きやすいかどうか」という点がポイントになります。
書きやすい紙質であること、開いたときに中央が平らになり且つバラバラになりにくい丈夫なノートであることが基本です。
たくさん書きたい人はページ数の多いものでも良いのですが、まずは書き上げることを優先し最初はページ数少なめからスタートしてみては。葬儀社や相続関係業者が無料(もしくは有料)で配布している簡易的なエンディングノートから書き始めても良いでしょう。
エンディングノートを作成することは、自分自身の人生を振り返る機会にもなります。
2)医療・介護の希望をまとめる
どんなに強靭な肉体を持っていても、必ず衰えがあり、誰も100%終わりを迎えるものです。身体が思うように動かなくなったときに、否応なしに向き合っていかなければなりません。
医療・介護の希望というと、「延命治療」「尊厳死」「どこで介護されたいか」「認知症になったら」という項目ばかりに目が向きがちですが、「なぜそうしたいのか」という考え方の方が大切です。
どのような暮らし方をしたいのか、自分らしく「生き」「活き」「逝き」るという視点で、医療・介護を希望を考えてみましょう。
3)財産を把握しておく
まずは持っている資産をきちんと整理することからはじめましょう。年金など定期的に入ってくる収入や、預貯金、有価証券などの情報を整理します。近年は通帳や証券もデジタル化しているため、どこにどのような金融資産があるのか、本人以外は把握するのが難しくなっています。どこにどのような財産があるのかを確認し記録しておくことは、安心して生活していくことにもつながります。
休眠口座になっている口座があれば解約するなどの整理をしておくと、相続手続きがスリム化され、家族の負担が軽減できます。
4)住まい・暮らし方の希望を伝えておく
高齢者の事故で最も多い場所は自宅です。軽微な事故でもそこから足腰が悪くなってしまったり、寝たきりになってしまうことも少なくありません。手すりの設置や段差の解消、トイレの改修など介護保険を使えることもありますし、金利の融資制度や補助金制度がある自治体もあります。
また心身の状況によっては、高齢者住宅への住み替えや施設への入所も選択肢に入ります。そうはいっても、高齢者住宅や高齢者施設にはさまざまな種類があり、自立度、認知機能の状態によって入居・利用できる住宅・施設が異なるだけではなく、各施設のサービスの内容や費用も異なります。「いろいろやってほしい」という人と、「できるだけ自由にしたい」という人では求めるサービスも違うでしょう。
まずは自分が「どのように暮らしたいか」という希望を表出しておくことをお勧めします。
5)葬儀・お墓の希望
自分の葬儀の希望があれば、エンディングノートに書いておくと良いでしょう。ただし、エンディングノ―トの項目にそって、チェックを入れておけば良いというのではなく、「なぜそうしたいのか」という考え方が大切です。
例えば、「家族葬」を希望している場合は、なぜ家族葬なのかという本意、祭壇や死装束にこだわりがあれば、なぜそれを選ぶのかという理由を添えておくことの方が大切です。
お墓に関しては、自分でお墓に入ることはできませんが、事前に決めておくことはできます。
先祖代々から受け継いでいる承継墓の場合は、どのように次世代へ引き継ぐか、弔い方法や宗教儀礼など共有しておくことが必要です。
かつてはお墓を継ぐ人がいない場合、購入することもできませんでした。近年は継ぐことを前提としない「永代管理(供養)」システムを採用しているお墓もあり、人気を集めています。家族関係の変化により、お墓の悩みも多様化しています。
6)生前整理をする
生前整理は、資産や身の回りの物を見直す作業からはじまります。仕分けや不用品の処分をすることで、遺品となったときに相続人の負担が軽減されるというメリットがありますが、それよりも「安全に暮らす」という視点で取り組んでみると良いでしょう。
高齢者の事故は室内で多発します。体力に余裕があるうちに少しずつ始めるのがベストでが、家族と一緒に行うことでお互いの意見のすり合わせをすることができます。
7)キーパーソンを決めておく
病気やけがで入院・手術になったとき、認知症などで日常生活を営むことが困難になったときのことを考えてみましょう。
入院や手術をするときには、身元保証や手術の同意をする人が必要となります。認知症が進行し、掃除や洗濯などの家事ができなくなったり、健康状態が悪化することもあります。高齢者だと詐欺や犯罪に合うリスクも高まります。
また死後の手続きや葬儀やお墓のことなど、自分で生前に準備をしていたとしてもそれらを誰かに伝えて納骨してもらうよう託しておかなければなりません。せっかくお墓を準備しても、その事実を他の人に知らされることなく契約だけされているお墓が一定数存在しています。
また、死後の手続きや遺品の処分など、誰に何を頼んだら良いか考えておきましょう。相続人となる人がいるのであれば、その人たちが話し合いで分担して行うケースが多いようですが、相続人同士が連絡を取り合える関係でなかったり、そもそも頼める親戚がいない場合は、自分に代わってこれら実行してくれる代理人が必要になってきます。
「どんな希望を残すか」よりも、「希望を誰に託すか」の方が終活を実践するうえで重要になってくるかもしれません。
終活のコツ
- ひとりですべてを背負わない
終活は自分の考えを整理するだけではなく、住み替えをしたり、お墓を決めたりと、行動に移す作業も伴います。自分だけで判断できることもありますが、自分以外の意見も考慮しないといけない項目もあります。例えば、「地元にお墓を購入したが、跡継ぎである息子に『遠くてお墓参りに行けない』と反対され、墓地の区画は放棄して別の場所を購入した」というケースがありました。介護の問題も同様、要介護度によって利用できる介護サービスや施設の種別も異なってきます。
まずは終活を進めていること、具体的に考えていることを伝えるだけでも家族とコミュニケーションをとるきっかけになります。家族との対話を重ねるたびに、絆が一層深まることにつながります。
- 専門家に相談してみる
終活については、インターネットでさまざまな情報を得ることができますが、個別具体的な問題については専門家に相談してみるのが一番です。
とはいえ、相続関連だけでも戸籍関係の収集や死後の事務手続きなら行政書士、不動産登記は司法書士、相続税の申告は税理士というように、そもそも何が問題なのかを把握できていないと、適切な相談先に出会えないこともあります。
ほかにも保険、介護、遺品整理、葬儀、お墓などさまざまな課題が表出することでしょう。
何が課題なのかを整理し、それぞれの課題に対して適切な専門家・専門業者につなぐ「終活の専門家」も頼りになります。
- ときどき見直しをする
終活はエンディングノートの項目を埋めたらおしまいというわけではありません。自分の心身の状態、周囲の環境、人間関係など、さまざまな要因で状況が変化し、それに応じて考え方や考える項目も変化するものです。
終活は、「その時」まで終わることはなく、心身の衰えと向き合い、看取りの段階まで続きます。
「〇〇しなければいけない」と気負わずに、ときどき見直しをしながら自分のペースではじめてみてはいかがでしょうか。

学研ココファンのお葬式「ここりえ」
終活・葬儀・お墓アドバイザー、社会福祉士・介護福祉士
吉川美津子
終活はすべてを完璧にしようと気負って始めると途中で息切れしてしまいます。「できるところからはじめる」「変更可」と気軽にはじめてみましょう。終活を始める順序に迷ったら、エンディングノートを書いたり、家の片づけからはじめてみましょう。お金や不動産などトラブルになりやすい項目も優先順位は高くなります。
なお、エンディングノートに法的効力はありませんので、遺産相続については遺言書を作成することをおすすめします。