「終活」という言葉が急速に普及して以来、エンディングノートに関心を寄せる人が増えています。書店の棚を覗くと、100種類以上ズラリと並んでいるところも。
また、近年ではオリジナルエンディングノートを無料配布している自治体も増えています。
しかし実際に書いている人の割合は、というと、実はあまり高くありません。
2020年の調査によると、エンディングノートを持っている人の割合は10.2%、そのうち書いている(少しでも)人の割合は59.9%(調査「NPO法人ら・し・さ」)。持っていても全く書いていない人の割合は40.1%という数字に…。
一体なぜエンディングノートは「書けない」のでしょうか?
エンディングノートとは
エンディングノートとは、万が一に備えて自分自身についての情報をわかりやすくまとめて書き記しておくノートのことをいいます。
万が一とは、事故にあったときや、病気や老化で判断力を失ったとき、そして死に直面した時のこと。
私たちの生活はIT化で機能的になっていますが、その半面、当人以外の人が情報機器やオンラインツールからの情報を引き出すことが難しくなっています。
自分自身の記録を1冊のノートにまとめておくことは、情報がコンパクトに集約することができるだけではなく、当人以外の人が目的の情報を見つけやすいというメリットがあるんですね。
現在のエンディングノートのベースとなったのは、1996年に刊行された遺言ノート(著書:井上治代)になりますが、2000年頃から葬祭業者を中心にエンディングノートに注目が集まり、じわじわと一般に広がるようになりました。2011年にはユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされています。近年はオリジナルエンディングノートを作っている制作している自治体もありますし、ホームページからダウンロードできるところも増えているので、気軽に入手しやすくなりました。
エンディングノートの項目

エンディングノートはすでに数百種類刊行されていますが、内容は概ね以下のような項目で構成されています。
- 自分の基本情報
氏名、生年月日、住所、趣味、特技、経歴等、履歴書に書く情報のほか、思い出や信念、好きな食べ物など、自由に書いてみましょう。
- 医療・介護の希望
医療・介護については「本人の希望」を最優先に、さまざまな決定をしなければなりません。心身の衰えは、人によって異なります。
多くのエンディングノートは「延命処置」「介護の場所」「病名・余命の告知」など、おおざっぱな項目しかありませんが、「なぜそのように考えるのか」という考え方を記しておくことが大切です。
- 連絡先
連絡先を電話帳で整理をする人が少なくなり、家族であってもお互いの友人・知人の連絡先を知らないという人が増えています。フルネームも知らないという人も少なくないでしょう。
家族、親戚、友人・知人のリストを作って連絡先をまとめておきましょう。別の住所録に連絡先がまとまっているなら、そのリストがどこにあるのか明記を。できれば訃報を告知するべき人のチェックも入れてきます。
- 葬儀の希望
信仰、喪主、告知すべき人のリスト、遺影写真の準備の有無等を記しておきましょう。葬儀の規模や内容についての希望を細かく伝えておくこともできますが、葬儀は残された人が故人を偲ぶ場でもあります。どのように弔いたいかという家族の意見も尊重します。
- お墓の希望
新しくお墓を建てる場合は、希望を伝えておきましょう。
すでにお墓を持っていて、引き継ぐ予定のある人は、誰がどのような形で継いでいくのかを伝えておきます。
お墓は民法で「祭祀財産」になるため、遺言で「祭祀主宰者」を指定しておくこともできます。
- 資産に関する記録
所持している財産については、できるだけ書き記しておくことをおすすめします。また、貴金属や骨とう品など、価値のあるコレクション類の譲渡先も書いておいたほうが安心です。
借金をはじめとする負の遺産を書くことも忘れずに。マイナス財産があらかじめわかっていれば遺族は「相続放棄」の手続きを選択することもあります。
- デジタル資産に関する記録
交友関係から金融資産まで、すべての情報がスマホで管理をしている人が多くなっている現代では、万が一のときにスマホを開くことができず、持ち主の情報を引き出すのが困難になっています。
エンディングノートにロック解除につながる「ヒント」を書いておくことをおすすめします。
エンディングノートはなぜ書けない?
前述の調査にあるように、エンディングノートを持っていても書けない人が約4割!
「書けない」理由を聞いてみると・・・
- 気力やモチベーションが続かない
普段からメモを取ったり日記をつけるなど、「書く」ことを苦痛と思わない人だと気軽にどんどん書き進めていけるのですが、ペンをとることに慣れていないと次第に項目を埋めるだけの作業になってしまい、モチベーションが続かなくなります。
「続ける自信がない」という場合は、すべてを細かく埋めようとせず、書きやすいところから書いていくのがポイントです。
- 締め切りがない
エンディングノートはいつまで書き終えなければならないという決まりはありません。むしろ何度も見直して加筆したり、必要な個所は変更しながら作り上げていく性格のものです。
とはいえ、実際には締め切りがあったほうが書きやすいもの。「今月中に埋める」といった目途をつけながら書いていくと良いでしょう。
- 今は必要性を感じない
万が一に備えて準備をしておくエンディングノートは、健康に問題のない人にとってはピンとこないという意見も。
「何を書いて良いのかわからない」という人は、気合を入れて市販されているエンディングノートを買う必要はありません。雑誌の付録や、自治体や社会福祉協議会等で無料配布されている数ページ程度のエンディングノートからはじめてみましょう。
- 死を意識したくない
エンディングノートには、葬儀やお墓についての項目が必ず入っています。自分や家族の死を意識することになるので、前向きになれないのは当然です。
無理に書こうとせずに、ひとまず空欄でもOKです。書けるタイミングが来たら、少しずつ埋めていくようにしましょう。
エンディングノートの注意
法的効力がない
エンディングノートで自分の思いや記録を書き留めておくこと、万が一の備えにはなりますが、遺言と違って法的効力はありません。
例えば、遺産相続についてエンディングノートに希望を書くことはできますが、法的効力がないためあくまで「思いを伝える」に留まります。
また遺言は、死後の法律関係を定めるための意思表示であり、病気や不慮の事故などで家族が困ったときに活躍するツールではありません。
友人・知人の連絡先、資産情報、医療・介護の希望など、エンディングノートにはさまざまな内容のことを記しておくことができます。
保管場所
エンディングノートの保管場所については2通りの考え方があります。
「自分に不測の事態が起こったときに役に立たなければ意味がないから、できるだけ目につくところに置いておく」
「家族と一緒に書いて保管するようにしている」
と家族間でエンディングノートの存在を共有しているケース。
一方で「こっそり書きたいので、誰にも見られたくない」「書いていることを知られるのが恥ずかしい」と人目につきにくい引き出しの奥などにしまっておきたいタイプの人もいるでしょう。
ひっそり書きたいタイプの人であっても、不測の事態が起こったときには、エンディングノートを見つけてもらう必要はあります。
あえて知らせなくても誰かに見つけてもらえるよう、他の書類や記念品などと一緒にしておくなど、目に留めてもらえる可能性のある場所に保管します。
まとめ
エンディングノートは自分の思いを託す、最後のメッセージにもなり、家族の負担を減らすことができるだけでなく、本人の判断力が衰えたり意思表示ができなくなったときも、家族がエンディングノートに書かれた情報をもとにさまざまな選択をすることができます。
人生を充実したものにするために、自分の人生に向き合うきっかけとして、エンディングノートを活用してみてはいかがでしょうか。

学研ココファンのお葬式「ここりえ」
終活・葬儀・お墓アドバイザー 吉川美津子
エンディングノートは、完璧を目指さず気軽に書いていくのがポイント。書き写さなくても、コピーやメモ書きを貼ってもOKです。使い慣れた手帳などをエンディングノートとして活用しても良いでしょう。